――――――――――――――――――――――
マノンの考古学資料 / 遺跡概説
――――――――――――――――――――――

□□□□□――――――――高位書記官のこと――――――――――――――――

<アーシャ末期を支配した高位書記官>

アーシャ遺跡は紀元前数千年の小村で
あるにも関わらず、
今でも驚くほど精緻な伝説として、語り継がれ、
その文献と共に保存されている。

文献を編纂したのは
アーシャ最後の書記官であり、
イツァートと呼ばれ、尊敬を集めていた人物で、

事実上、このアーシャ地方を
統率していたのは、その書記官だったと
言われている。

彼の死と共にアーシャの郷は
人々の歴史から姿を隠したとされ、
そこには死にゆく老書記官イツァートの
強い意志が働いていた。


□□□□□――――――――書記官の手記――――――――――――――――

<高位書記官イツァートの年代記>

この書記官が合理的な考え方をする人物で
現代でも通じるような見識の高さがあることが
分かる。
その描写は精緻であり矛盾がない。
古代の文献として事実を捉えたものとして、
信用できるものだ。

だが、それゆえに、年代記の中でも
鍵となる『ライリーン』が何を示すのか、
それが気になる。

考古学の常識的に考えれば、
何からの土着の神で、たとえば
太陽などを神格化して奉られることはよくあることだ。

だが、記載を見ると、そうとも思われない。
『ライリーン』は単なるシンボリックなものではなく、何かが確実に実在していたと考えられる。


□□□□□――――――――アーシャの郷の生活――――――――――――――――

<アーシャの郷の生活>

アーシャは人口数百人の小さな村国家だった。
天然の要害に囲われ、外部とは一切の交流がなく、
その発生は定かではないが、古くから
ジェノミラなどにもその存在は伝わっていたとされる。

人々は「神巫女」と呼ばれる存在を中心に
平和で質素な暮らしをしていた。


□□□□□――――――――アーシャを襲う災厄――――――――――――――――

<アーシャを襲う災厄>

書記官イツァートの幼少の頃に
アーシャは何らかの災厄に見舞われたと
されている。

これはジェノミラに伝わる古文書にも
同様の記述が見られる。

ただ、具体的にその時期に何があったのか、
その災厄の内容は定かではない。

滅亡に瀕するような重大な出来事で
あったことは間違いがないが、
イツァートは記載することを
避けているようなのだ。

□□□□□――――――――神巫女の伝説――――――――――――――――

<神巫女の伝説>

アーシャは「神巫女」と呼ばれる存在が
人々の絶大な信仰の元で、統治していた。

イツァートの年代記に出てくる名前は、
彼の幼少時に在位していた『ブリザンテ』という
人物のみである。

その前後については定かではないが、
おそらく代々継承されたものと思われる。

神巫女には絶大なる霊威があり、
何らかの固有の能力を宿していたとされる。
そして、それが人々の信仰の対象に
なっていたのだ。

その能力とは具体的に何であったのか?
それこそが調査の目的である。

なお、神巫女には三人の祭祀官が補佐しており、
それぞれ、星、花、あと一つは不明だが、
各々を司っていたとされる。


――――――――――――――――――――――――
マノンのメモ / 遺跡出発前後の言葉
――――――――――――――――――――――――
□□□□□――――――――1遺跡のこと――――――――――――――――

湖の向こう側に行ってみたの。
美しいものに出会えたのだと思いました。
あなたと、この風景を共有したかった。

今は余裕がないの。
視界からこぼれてゆく景色を
また、いつか拾いあつめたい。

誰かに会っても、決して信用しないで。


□□□□□――――――――2考古学のこと――――――――――――――――

日本にいるうちに、
人の生き方に疑問を持ち始めた。

これだけ豊かな暮らしをしているはずなのに、
なぜ、殺人事件ばかり起きてしまうの?

争い事はなくなる気配がないのは
どうしてなのか・・・

人が持つ根源的な恐怖。

真壁先生はそれを取り除く手段を
過去の歴史の中に求めることが
できると言われた。

その時から私は考古学を志すことになった。

あなたにも少しずつ
分かってきたと思う。

この遺跡に託されたものは・・
これまでの我々の文明を超えるもの。

それが、あなたの反対を押し切って、
遺跡の発掘に向かった、
二つの理由のうちの一つなのです。

この先に行く気がありますか・・?


□□□□□――――――――3発掘隊のこと――――――――――――――――

私は稲見を信用していなかった。

彼が真壁教授のために、
いや杏子さんのために命を賭ける理由が
まったく思い当たらない。

彼の理由・・
彼が遺跡の深奥に向かうその理由は・・?

稲見はライリーンのことを
知っていたのだろうか?

そうやって考えてゆくと、
また、一つの疑問が浮かんでくる。

では、私はなぜそこまでするのだろう?
私がこの遺跡に来た理由は・・?

□□□□□――――――――4真壁老人のこと――――――――――――――――

発掘が終わると、いつも、
真壁先生は、一番に
彼女にそれを見せた。

杏子さんが望むままに、
その時だけ、杏子さんは、
少しの微笑を浮かべていた。

真壁先生は
子供が生まれるのが疎ましかった。
研究に支障が出るのではないかと。

だけど、生まれた杏子さんを
真壁先生は溺愛した。
だけど、あの日以来、
杏子さんは心を閉ざした。


あなたは杏子さんに会ったことがある。
杏子さんはあなたのことが好きみたい。
少し笑っていたわ。

杏子さんのことを伝えたい。
私たちがこの場所に来る理由は
真壁杏子さんに由来しているから。