98年9月14日 デニー山村から、スパイラルゲームズのメンバーへ。


恩田の死、そして、佐古田さんの自殺で、私は覚悟を決めた。

「アンゴルモア」の制作に留まり、ヨハネとアンゴルモアの
正体を見極め、場合によっては対決もやむをえないと思っていた。


その頃から、JOHNからのメールが来るようになった。
そして、日常的に奇妙な違和感を感じるようになった。
それは、主に人通りの多い場所で起こった。
誰かに見られている感覚に近いものだが、しかし、振りかえっても、
そこには忙しく行き交う人々がいるのみなのだった。


ある時、私は、彩月の隙をついて、レムソフトのサーバを徹底的に調べた。
予想通り、不正なアクセスが一定の割合で発見された。

私はその記録を手掛かりに、苦労して、調査を行い、
ネットワーク上のある場所に行き付いた。
乱橋さんも、これを発見したのだと思う。

コミュニティと化しているのを見つけた。


そこは、実時間で更新される巨大なデータベースと、
チャットスペースで構成されており、

すべてJOHNというハンドルで、凄まじい数の情報のやり取りがなされていた。
つまり、JOHNと名乗る人間は膨大な数存在しているのだ。

私は、それらを、ヨハネの使徒達、と名付けた。

ヨハネの使徒達の正体は『個の総体』だ。


『個の総体』は、『集団』ではない。

集団とはお互いを見知っていることで、同一の行動を行う。
だが、ヨハネの使徒達は、お互いが使徒達であることさえ知らない。

各個人はネットワーク上で、お互いの個人情報を完全に隠し、
匿名性を保ったままで、行動を行っている。

逆に言えば、誰がヨハネの使徒達であるのかは本人しか知らない、ということだ。
つまり、身近にいる人間、あるいは、何気なくすれ違った人間、
あなたが次に話す人間・・誰しもが「ヨハネの使徒達」である可能性があるのだ。

私は、その中の一人でも、特定できればと思っていた。
だが、それは徒労に終わった。誰一人として個人情報を特定できなかった。
ヨハネの使徒達は、各々、完璧に個人を隠しているのだ。

そして、雑踏で生じる奇妙な違和感の正体は、
不特定多数の人間が、こちらを見ていたことが、原因だったと知った。
常に誰かしらが、何気ない日常の中で、私の傍にいたのだ。
そして、データベースを逐一更新していたのであろう・・

私は、ヨハネの使徒達、の存在については解明できた。
だが、おそらく、彼らを導いていると思われる「ヨハネ」本人が、
存在しているのかどうかは分からなかった。



もう一つ、推測だが、私は、幼くして失った妹が、ヨハネの使徒達の
一人だったのはないかと思い、絶望した。だが、それも確かめる術はない。

残された行動は、ただ、アンゴルモアを破棄することだけだ。
それが何であるのか分からないが、忌むべく長年の宿敵の作ろうとしている物、
皮肉にも、私が携わることになったそのソフトを、
何としても消去しなければならない。